「葵さん、つまーんなーい!」
「部屋に入ってくるなり何ですか、突然…」
「こう長雨が続くとさ、気分も滅入っちゃったりなんかして、やる気が全然出ないっていうかさ…」
「旦那はいつもじゃないですか…」
「うん、そうなんだけどさ」
(…潔いですね)
「じゃなくて! 何か面白い事とか無いんですか?」
「面白い事ですか? そうですね…無いわけではありませんが…」
「本当に!?」
「えぇ、本当に。但し、付け払いを精算していただければ――」
「……」
「なんだい、珍しく賑やかだと思ったら、平野の旦那じゃないか!」
「もう雪代ちゃんでもいいからさ、なんか面白いことない?」
「でもって何ですか、でもって! 残念ながら、旦那が期待してるような事は、とんとありませんよ」
「だよねぇ…。だったらさ、俺の相手してよ」
「残念ながら、これから客の相手をしなきゃならないんです。また今度!」
「旦那も相当な暇人ですね…」
「あら、煩い虫がいると思って来てみれば…平野の旦那でしたか」
「花魁…意外と酷い言い草ですね…」
「そうですか? 旦那はこういうのがお好きだと、小耳に挟んだので」
「それは相手によるというか…花魁のは戯れというより本音っぽいというか…」
「うふっ、よくお分かりで」
「えっ…」
「あ、平野の旦那様!」
「旦那様です!」
「……。こうなったら、この二人に――」
「どうやら旦那は閻魔様の元へ逝ってみたいようですね?」
「……め、滅相もございません…」
「はぁ…東風、南風。部屋に戻りましょう」
「はい、姐様!」
「あぁ…」
「旦那にそんな趣味があったとは知りませんでした…。あ、そういえば…!」
「…なんですか?」
「これから葛城様とのお約束が合ったんでした」
「えっ?」
「間もなく、お越しになりますが…旦那も同席しますか?」
「ちょ…なんで早く言ってくれないんですか! ま、また来ますから!!」
「あっ、旦那! 精算……」