「やっと見つけた!」
城の廊下を歩いていると、重寿さんに声を掛けられた。
「重寿さん、今日はお城に居るんですね?」
「まぁね。それより…はい、これあげる」
ぽんと差し出されたのは、西洋風の飾りがあしらわれた小箱だった。
訳も分からず反射的に受け取ってしまったのだが…。
「これは…一体?」
手中の箱と彼の顔を交互に見比べる。
「それは真珠麿って言う、西洋の飴らしいよ?」
「西洋の飴を何故?」
「この間、君に貰ったでしょ?」
「この前…ちょこれーとの事ですか?」
「そう、それそれ! そのお返しにと思って、俺も西洋の物にしてみたんだ」
蓋を開けると、落雁にも似た白いそれが数粒並んでいた。
彼はそのうちの一粒を手に取り…。
「何これ! 凄い柔らかいんだけど!!」
子供のようにはしゃいでいる。
僅かな力で触ってみると、柔らかい感触が返ってくる。まるでねり飴のようだ。
「俺が食べさせてあげるよ。はい、あーんして?」
「え!? 大丈夫です、そのくらい一人で――」
「ほらほら、早くしないと溶けちゃうよ! あーん?」
「うぅっ…」
口元へと差し出されたそれは、少しずつ体温で形を変え始める。
このまま食べないなんて事…彼は許してくれないんだろうな。
私は一回だけと潔く諦めると、口を開けた。
「あ、あーん…!」
口の中に入れた途端に蕩け始め、今までに感じた事のない甘さが広がる。
「すぐ食べなかったから…んっ…あぁやっぱり甘いね」
小言を言いながら、彼が指に付いた微量の飴を舐めとる。
「あっ!」
「へっ? 何?」
「い、いえ…何でもありません」
その指はつい先程まで私の口に入って…。
そう思った途端、無性に恥ずかしくなってくる。
「もしかして……口移しが良かった?」
「えっ!?」
俯きかけた顔を上げると、重寿さんが意地悪な笑みを浮かべていた。
「はははっ、冗談だよ。それはもっと深い仲になってから…ね?」
彼はそう言い残すと、来た道を戻ってしまった。
深い仲って…そんな言葉、誰にでも見境なく言っているに違いない。
いつもの軽口と判断すると、私は何事もなかったように仕事へ戻るのだった。