ここは青葉城内にある女中や従者達の詰所。
女中仕事の合間に少しだけ休憩をしていると、不意に肩を叩かれた。
誰だろうと顔を上げてみると…。
「宗泰様!」
そこには意外な人物が立っていた。
慌てて姿勢を整えようとすると、彼の手がやんわりと制する。
「そのままで構わないよ。他に誰が見ている訳でも無いしね」
そう言って、宗泰様は隣に腰を下ろした。
「お前にこれを…」
ごそごそと袂から取り出したのは小さな包みだった。
紙に包まれたそれは、片手に乗る程の大きさである。
「…これは?」
「お前の好きな物さ。先月のお礼だよ」
「お礼…ですか?」
手触りで何となく中身が金平糖なのだろうとは思っていた。
けれども、それ以上に何かお礼を頂くような事をしたかと考え込んでしまう。
「分からないかい? 先月、ちょこれーとを貰っただろう」
「あぁ!」
「外の国では、本日そのお返しをすると聞いてな」
確かにそんな話を聞いたような記憶がある。
お返しが欲しくて、差し上げたわけでは無いのだけど…。
「是非、受け取って欲しい」
真剣な眼差しで言われてしまえば、無碍にするわけにもいかない。
それに拒否し続けた所で、結局、私が折れる羽目になるのだろう。
「断っても、無理やりお渡しになるんですよね?」
「勿論。お前に拒否権なんて無いからね」
自信満々の笑みで答える宗泰様に、私は大きく溜息を吐く。
やはり、私が折れるしかなさいようだ。
「はぁ…分かりました。有り難く、頂戴しますね」
そう言うと、彼は満足そうな表情を浮かべた。
「本当は高価な品をと思ったんだが…お前のことだ、喜びはしないだろう?」
「当たり前です! 高価なお品物は、意中の御方にでもお贈り下さい!」
「ふむ…お前がその愛しの君なんだがね…」
ぽつりと呟かれた声ははっきりした言葉には聞こえず、何と仰られたのか聞き取れない。
「宗泰様? 今、なんて…」
「ふふっ、気にするな」
聞き返そうとした言葉が、彼の声に遮られる。
まるでそれ以上の追求を許さないと言われているようで、私は言葉を飲み込んだ。
「お茶、有難う。美味しかったよ」
彼は立ち上がると、そのまま部屋を後にした。
廊下からは入れ替わるように他の者達の声が近付いてくる。
私は誰かに気付かれる前に、そっと手にした包みを袂の中へ隠した。