年の始めの良き日に、挨拶をしに来る者は絶えることがない。
早朝より出来たという城門の行列は、未だ終わりは見えず、長くなるばかりと耳にする。
だが、それらは父上への謁見が多く、私のところへ来ようとする者はまず少ない。
その数名も一様に作った笑顔で、上辺だけの言葉を並べ、私の機嫌を窺っていく。
そういった小さな積み重ねが、やがて自分達に戻ってくる。そう信じているかのように。
辟易していたが、それを悟られぬように隠し、私は笑みを浮かべながら彼らの相手をする。
このつまらない時間が過ぎれば、きっと何か褒美が待っているに違いないと言い聞かせながら。

× × × × ×

昼を過ぎた頃。接客の合間に廊下へ出る。
このまま室内に居たのでは、気が狂いかねない。

「ん?」

角を曲がろうとした後ろ姿に、ふと声をかける。

「桂華!」
名を呼ぶと、彼女が足を止める。

「宗泰様」

屈託のない笑みに、ささくれ立っていた心が落ち着いていく。

「如何なさいましたか?」
「あ、いや…少し気分を変えようと思ってね」
「あぁ…」

今の私がどのような状況か察したのだろう。彼女は苦笑いを浮かべる。

「今は大変かと思いますが、もうすぐお食事の時間ですから。頑張りましょう!」

幼子を宥めるような台詞は少し気になるが…。
このような笑顔を向けられては、文句も言えなくなってしまう。
惚れた弱みとは、実に厄介なものだ。

「お前に言われては、仕方がない」
「ふふっ、あと少しの辛抱ですよ!」
「あぁ、分かったよ」

やれやれと眉を寄せると、部屋へと。
途端、一つの妙案が頭に浮かんだ。
これからの苦痛を乗り越えるための褒美。それは――。
後ろを振り返ると、彼女は驚いた面持ちでこちらを見つめている。

「正月が明けたら、町へ行くぞ」
「は、はぁ…」

訳が分からないという表情の彼女の耳元へと顔を近づける。

「葛城にも、菊千代にも内緒でな」
「!!」

目を丸く見開き、頬を微かに赤らめる。
それが言葉の内容でなのか、それとも囁かれてなのかは分からないが。

「分かったな」

と最後に一つ念を押し、今度こそ部屋へと戻る。
背後から聞こえた了解の返事に、私は小さな笑みを浮かべた。