町は新年の活気に溢れ、どの店も人の入りは上々のようだ。
人の間を抜け前進するが、まるで縁日の境内のように歩みは遅い。
だが、こうして歩いていると、懐かしい記憶がふと蘇ってくる。
幼い桂華が私とはぐれ、泣きながら立ち尽くしていた。
まだ小さかった慎弥も、道草をしてはよく迷子になっていたものだ。
遠き日の思い出をくすりと笑うと、僅か後ろに並ぶ桂華が声を掛けてきた。

「何かありましたか?」

細やかな笑い声が聞こえたのだろう。不思議そうな顔でこちらを見つめている。

「昔のことを思い出してな」
「昔の?」

桂華と慎弥、各々の思い出話をすると、あれは苦笑いを浮かべた。

「ふふっ、そんな事もございました」
「……はぐれても泣かぬのか?」
「なっ! もう子供ではありません! 今は泣きません!」

反論する点が些か外れている気もするが、この際それは置いておこう。
むしろ、むきになって言い返す様が子供のようで、つい笑ってしまいそうになる。
その姿に幼い頃の面影が仄かに重なって見えた気がした。

「そうか。では、お前の好物を買いに行こうと思ったが…またにするか」
「えっ?」

僅かな笑みを向けると、情けない声が返ってくる。
顔を見れば、今にも泣き出すのではないかと思う程に眉を下げ、あれは動きを止めていた。

「子供で無いのなら、金平糖も要らぬだろう」
「ち、違います! あの…それとこれは別の話でして…」

おろおろと狼狽え、どう言い繕ったものかと考え始める。
昔はこうして誂ったものだが、何年経ってもその反応は変わらない。
不変であることに安堵しつつ、私はこの後の行動を思い出す。
そう、こうなった時はいつも決まって――。

「はぁ…買ってやるから、そう悩むな」
「本当ですか!!」

罪悪感から最終的には私が折れるのだ。
いやそれだけではない。この笑顔が見たくて、あの時からずっと…。
目を輝かせ、何かを期待する表情も昔と何一つ変わらない。

「あぁ。では行くか」
「はい!」

きっとこれから先も笑顔が見たくて、何度もこのやり取りをするだろう。
昔と変わらないことに安心をしつつ、私は少し歩みを早めたのだった。