新しい年を迎えた城下町は、いつも以上に人々で混み合い、歩くのもやっとだ。
いつものように、馴染みの店にふらりと立ち寄る…なんて気にもなれないほど。
商売繁盛は良いのだが、気軽に入れないのも少し困りものである。
そして、何処へ行くわけでもなく、人混みをすり抜けながら大通りを歩く。
視界の端でちらちらと見切れる桃色に、私はくすりと微笑み、足を止めた。

「少し早かったかしら?」
「えっ…?」

数歩遅れて止まる足音。
彼女は顔を上げると、小首を傾げた。

「歩く速度の話。ちょっと速い?」
「あ、違うんです! その…店先の品物を色々見てしまって…」

すみません、と彼女は小さく呟いた。
確かに新しい年だからと多くの店が店先に縁起物の品物を置いていたりする。
次々と目移りしてしまうのも仕方が無いだろう。

「何か欲しい物はあった?」
「いえ、見ているだけで楽しかったので…」

それは遠慮して言っているわけでもなく、本当に欲しい物は無いように見えた。
数日の間だけ賑わう町自体を楽しんでいるように。

「折角、町へ来たんだし、手ぶらで帰るのも勿体無いわよね…」

人が往来する道端に立ち止まり、僅かの間。
一つの妙案が浮かぶ。

「それじゃあ、着衣始めしましょうか!」
「えっ?」
「さぁ、行くわよ!」

目を丸くした彼女の手を引き、馴染みの呉服屋を目指す。
目的地が決まってしまえば、歩みは早い。人を掻き分け、どんどん先へと進む。
今度は彼女を置いていかないようにと、手を繋ぎながら。
脳裏に色鮮やかな反物の数々が浮かんでくる。
どんな色の着物にして、襟は? 帯は? 簪は? と組み合わせを考えるだけで、楽しくなってくる。
彼女の服を堂々と選べるのは、今のところ私だけの特権だ。
将景や慎ちゃんはこういう事は疎い…いやむしろ不得手だろう。
女同士の付き合いと言ってしまえば、宗泰様ですら割って入ることは難しい。
重ちゃんは目下敵にあらず。
だから今はまだ、目に見えて関係を変える必要はない。
少しずつでいいのだ。
少しずつ少しずつ…彼女を私の色に染めあげればいいのだから。